生体高分子における強い静電相互作用

     (微粒子プラズマ研究会、特別講演、2004年3月4日)
                            
                                   田中基彦(核融合研)


 
  強い静電相互作用は、微粒子プラズマとイオン性ソフトマター(高分子、コロイド、電解質溶液、タンパク質などの生体系)で 共通のものであり、それが電荷の結晶化や電気2重層などを介した構造形成を引き起こす。荷電高分子の相転移、強いイオン相関 によるマクロイオンの電荷反転現象、水素結合によるDNAの2重らせん構造の安定化などは、静電力による構造形成の好例である。 他方でこれらの大きな相違点は、クーロン結合定数が室温のイオン性ソフトマターで10程度であることで、その原因は電荷密度が e/(10A)^2程度、通常イオンを取り巻いて存在する溶液が大きな誘電率(室温の水で80)をもつためである。水中で静電エネルギー と熱エネルギーが等しくなる半径は7オングストロームであるが、温度が低い(300K)ため、系の特性長である数オングストローム ではディバイ遮蔽は完璧ではない。このため、イオン−イオン間の2体相互作用が顕著となり、長距離のクーロン力と短距離の 分子間力の2重奏による、特定構造の形成(鍵と鍵穴)が可能となると考えられる。

  今回の講演では、荷電高分子の相転移とイオン結晶化[1,2]、(ii)多価イオンを介した同符号電荷をもつマクロイオンの融合、 強い多価イオン−マクロイオン相関に基づく電荷反転現象、(iii) 低誘電率膜孔を通過するDNA [5]、をトピックスとして とりあげる。また、(iv) 量子力学的な多体系を扱う第一原理分子動力学法、そのフラーレンやイオン液体への応用 [6]、 (v) 物質理工学の計算機シミュレーションに最適な、高速かつ超低価格のPCクラスター計算機の構築と性能について述べる。


参考文献

[1] M.Tanaka, A.Yu Grosberg, V.S.Pande, and T.Tanaka, Molecular dynamics study of structure organization in strongly-coupled chain of charged particles, Phys.Review, E56, 5798-5808 (1997).
[2] M.Tanaka, and T.Tanaka, Clumps of randomly charged polymers: Molecular dynamics simulations of condensation, crystallization and swelling, Phys.Review, E62, 3803-3816 (2000).
[3]
M.Tanaka and A.Yu. Grosberg, Giant charge inversion of a macroion due to multivalent counterions and monovalent coions: Molecular dynamics study, J.Chem.Phys., 115, 567-574 (2001).
[4]
M.Tanaka, Electrophoresis of a rod macroion under polyelectrolyte salt: Is DNA charge inverted?  J. Physics: Condensed Matter, 16, S2127-2134 (2004).

[5] Y.Rabin and M.Tanaka, DNA in nanopore ? counterion condensation and coion depletion, to appear in Phys.Rev. Letters (2005).
[6] 善甫康成、田中基彦、第一原理分子動力学法による物質科学、核融合科学研究所ニュースレター、20042/3月号.
[7] 田中基彦、手軽に作れる研究室専用スーパーコンピュータ:高速通信ソフトウェアを利用したPCクラスター計算機、日本物理学会誌「話題」、vol.59, No.12 898--902 (2004); Los Alamos Arxiv, Physics/0407152 (2004).



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