イオン性・ソフトマター物質の分子動力学   

  私たちは ソフトマター (柔らかい凝縮物質) の恩恵を、日常で広く受けています。
たとえば、ゼラチン、ペンキ、界面活性剤や液晶ディスプレイ、光電気感受性をもつ
新機能性高分子素材 、そして たんぱく質やDNA など生命の素材・構造材は
ソフトマターです。また、不思議な物性をもち生命を満たす
「水」 もソフトマターです。

  つまり、ソフトマターは、高分子、ゲル、液晶、コロイド溶液など「柔らかい固体、液体」
の総称です。ここではそのなかで、電気を帯びていて静電気力により構造や機能が強く
影響される
イオン性ソフトマター について、生体系を含め、4種類の研究を紹介します。

  ところで、純粋な「氷」はマイクロ波オーブンで溶かすことができるでしょうか?
答えは、下にある4番目の研究を見てください。


電気泳動する電荷逆転したマクロイオン    この物質では、
構造化をもた
  らす(正味の)静電的エネルギー
  が、乱雑さのもとである熱エネ
  ルギーを数倍から10倍ほど上
  回っています。また正と負イオン
  のもつ電気量が等しい電気中性
  状態でも、正イオンは負イオンと
  選択的にペアをつくるため、イオ
  ン間に働く静電気
引力が斥力
  よりも強く
なります。
 

上の図は、電荷逆転したマクロイオンで、(a)全体図、(b)マクロイオン(赤い球)と周辺の
イオン群の拡大図です。
(Euro.Phys.J., E (2002)より)

 
 イオン性ソフトマターは「クーロン強結合系」のひとつですが、上でのべたエネルギー
の大小関係に起因して
適当な硬さと柔らかさをあわせもっており、この程度はイオン(塩)
濃度やpH(水素イオン濃度)など外的環境により制御
されます。日常や工業応用は
もちろん、DNAやたんぱく質を含む生化学過程は、この硬軟両性を上手に利用して
常温で高効率のエネルギー代謝や構造の維持を行っているといえるでしょう。イオン性
ソフトマターはこの点で、硬いクーロン強結合系(白色矮星や木星内部、結晶をつくる
ダストプラズマ)とは異なる物理化学的な面白さと幅広い応用性をもっています。
以下でのべる「電荷逆転」現象はDNAに適用して
遺伝子治療 に使うことが期待されて
います。

1. 電荷逆転現象 (Charge Inversion)

2. 電気を帯びた高分子 (Polyampholyte)

3. ナノサイズの膜孔を通過するDNA

4. 水、氷、食塩水のマイクロ波による加熱

Movie: Molecular Dynamics Simulation



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