マイクロ波による物質の加熱と制御

 マイクロ波は,日常生活でのマイクロ波オーブンとして毎日の
生活に欠かせないものである。これはマイクロ波の電場による、
誘電性物質である「水」の加熱を利用したものである。

 ところで,マイクロ波により水は加熱され,食塩を含む水は
さらによく加熱される。ところが,固体である純粋な(食塩を
含まない)氷は,マイクロ波では加熱できない。しかし,食塩を
含む氷は加熱できるので,冷凍食品の解凍である。これら
の加熱/非加熱過程はマイクロ波の電場により生じ,かつ
すべて異なる機構で生じていることが,計算機シミュレーション
による研究で解明された。

 一般に,電磁波は表皮効果のため金属表面で反射されて内部へ
浸透しない。また光子としてのマイクロ波エネルギーは,レーザー光
に比べて極めて微弱である。このため金属加熱は原理的に不可能
と思われてきた。ところが,21世紀への変わり目に,粉体とした金属
(サイズがミクロン程度)が、マイクロ波により、従来の熱伝導による
熱炉に比べて1/100程度の時間と使用エネルギーで加熱・焼結できる
ことが実験で示された(Roy et al., Nature 1999)。これを契機にして
マイクロ波による加熱と新規応用の研究が,基礎学術と応用の両面
で集中的に行われるようになった。

 またマイクロ波加熱は,電場だけでなく,マイクロ波の磁場成分
でも,磁性をもつ物質が効率的に加熱・焼結できて,その結果
得られる物質は新規素材として有用な性質をもつことが実験により
わかってきた。この現象が,磁鉄鉱の場合は 3d軌道にある不対
電子スピンの磁場に対する応答で生じることが,我々の理論研究
で明らかとなった。

 上記の磁鉄鉱(鉄鉱石の主成分)のマイクロ波による加熱は,
高純度鉄の省エネルギーでの生産という重要な応用がある。
これは応用のごく一部である。マイクロ波と物質の相互作用は
基礎学術において,電磁波と物質との相互作用という奥深い
分野をなしている。

 「マイクロ波励起・電磁非平衡反応場の科学」の特定領域研究
(文部科学省)では,平成18年度から22年度で,以下の研究を
集中的に行った。
(1) マイクロ波加熱のその場測定による実験的解明,
(2) 加熱と物質制御の物理機構の理論による解明,
(3) 小型省エネルギーのマイクロ波製鉄,
(4) 産業廃棄物の処理と貴金属の回収,
(5) 新規バルク素材の開発の研究。
このページでは,誘電体・金属・磁性体のマイクロ波による高い
効率での選択的加熱(加熱物質が限定される)について,最近の
理論による研究成果を紹介する。

和文記事:

マイクロ波による物質加熱の機構

誘電体: 
Microwave heating of water, ice and salt solution
(J.Chem.Phys, 2007)

磁性体:
Microwave heating of magnetic metal oxides
(Phys.Rev.B, 2009)

金属(非磁性):

Absorption of microwave energy by compacted copper powder
irradiated at 2.45GHz
(J.J.Appl.Phys., 2009)


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