散逸がない状態で散逸現象が起きる」, この矛盾が,磁気流体的な
散逸現象である磁気リコネクションに関して、磁気流体力学を完成させた
アルヴェンらを1950年代から悩ませたパラドックスでした。
  この問題を世界で初めて数値的に解明した(実証した)のが、 以下で
述べる研究です。話はすこし長くなりますが、 論旨は単純です。


なぜパラドックスなのか?

宇宙の99.99%は中性ガスが電離したプラズマ状態にあるといわれて
います。 そのプラズマ中を流れる電流は磁場をつくり、それがプラズマを
閉じ込めます。 ところが、マックスウェル方程式と流体の運動方程式から
導かれる磁気流体 方程式は、起源が異なる2つの磁力線群 (とそれを
運ぶプラズマ)は、散逸が ない場合は混合しないこと教えます。しかし、
地球周囲の太陽風との境界面では 磁気リコネクションが間歇的に30分
程度の時間内に発生・終了し、これがサブ ストーム(磁気擾乱)、その
結果としてオーロラ発光などの原因となっている ことが、 人工衛星による
観測の積み重ねでわかってきました。 一方、この宇宙環境では、散逸は
きわめて弱く、散逸が起きる特性時間は 1週間程度です。30分と1週間、
これでパラドックスといった意味が おわかりでしょう。

多くの研究者は磁気流体力学の方程式の範囲でものを考え、その
方程式に登場する散逸項が、オームの法則で 知られた電気抵抗でした。
散逸が無いと、実験室プラズマでも磁気流体 シミュレーションでも磁力線
は融合しないことが確められました。他方、散逸がある、すなわち電気抵抗
がゼロでない(有限である)ときは、 磁気リコネクションが発生します。
地球を取りまく宇宙空間でのプラズマと磁場のシミュレーション研究は、
この磁気流体方程式と有限の電気抵抗を用いています。


電気抵抗の起源は?

答えは意外にも、磁気流体による記述が成り立たない環境で磁気 リコネク
ションが起きている、からでした。私が行った マクロ粒子コードによる、
散逸のない状態での粒子シミュレーションで 磁気リコネクションが発生
しました。磁気リコネクション はX(エックス)点とよばれる極めて小さな領域
で発生、そこで 磁力線が融合します。 そこではプラズマ中のプロトンと
電子は異なる軌道を取ります。 すなわち、サイクロトロン半径の微小な電子は
磁力線に沿って運動し、 プロトンとの乖離がおきます。
これは、プロトンと電子が常に一緒に運動するという ub31.htmlFONT color="#ffff00">磁気流体記述の破綻
を意味します。

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「無散逸」磁気リコネクション:
電気抵抗の起源